サルコペニアとは
サルコペニアとは、加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」を指します。または、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、「身体機能の低下が起こること」を指します。
サルコペニアという用語は、Irwin Rosenbergによって生み出された造語で、ギリシャ語で筋肉を表す「sarx (sarco:サルコ)」と喪失を表す「penia(ぺニア)」を合わせた言葉です。
サルコペニアの診断基準(EWGSOP*):
サルコペニアは、下記の項目1)を裏付ける証拠に加え、2)あるいは 3)を満たす場合に診断される。
- 低筋肉量
- 低筋力
- 低身体機能
*EWGSOP:European Working Group on Sarcopenia in Older People
サルコペニアの分類
サルコペニアは、加齢が原因で起こる「一次性サルコペニア」と加齢以外にも原因がある「二次性サルコペニア」とに分類されます。(表2(原因によるサルコペニアの分類)参照)
加齢以外にも、日常生活動作や疾患、栄養状態によっても起こります。
- 寝たきりの生活や活動性が低下することによって起こる廃用によるもの
- 癌や虚血性心不全、末期腎不全、内分泌疾患などの疾患によるもの
- 栄養の吸収不良、消化管疾患や薬の副作用による食欲不振、エネルギー・タンパク質の摂取不足によるもの
原因によるサルコペニアの分類:
- 一次性サルコペニア(加齢性サルコペニア)
加齢以外に明らかな原因がないもの
- 二次性サルコペニア(活動に関連するサルコペニア)
寝たきり、不活発な生活スタイル、無重力状態が原因となり得るもの
- 疾患に関連するサルコペニア
重症臓器不全(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳)、炎症性疾患、悪性腫瘍や内分泌
疾患に付随するもの
- 栄養に関連するサルコペニア
吸収不良、消化管疾患、および食欲不振を起こす薬剤使用などに伴う、摂取
エネルギーおよび/またはタンパク質の摂取力不足に起因するもの食欲不振
をきたす薬物の使用
サルコペニアのメカニズム
筋肉の量は筋タンパクの合成と分解が繰返し行われることによって維持されています。筋タンパクの合成に必要な因子の減少や、筋タンパクの分解が筋タンパクの合成を上回ったときにも筋肉量は減少します。
加齢によって、筋肉の増加に関係する性ホルモンの減少・筋肉を働かすために必要な細胞の死(アポトーシス)・ミトコンドリアの機能障害が生じることと、廃用・栄養不良・癌や糖尿病などの消耗性疾患による筋萎縮(カヘキシア)の要因が合わさってサルコペニアを発症します。また、脳からの指令を筋肉に伝える働きをする運動神経の損失や、コルチコステロイド・成長ホルモン(GH)・インスリン様成長因子1(IGF-1)・甲状腺機能異常・インスリン抵抗性など筋肉の増大に関係するホルモンの影響によってもサルコペニアは起こります。
各疾患に罹患することにより炎症性サイトカインが多くなって、筋タンパクの分解が進むことでもサルコペニアの発症につながると考えられています。(図1参照)
図1:サルコペニアのメカニズム1)
サルコペニアの診断
Baumgartherらの研究グループによって、
- 6mの歩行テスト、
- 筋肉量の測定、
- 握力の測定結果によってサルコペニアかどうかを判断する欧米人向けのサルコペニア診断アルゴリズム(測定方法)が最初に確立されました。
筋肉量の測定には、骨粗鬆症の判定にも使われるX線照射によって正確性の高い結果が得られるDXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)、または微弱な電流を体に流し、電気抵抗で測定するBIA法(生体電気インピーダンス法)が推奨されています。
欧米人とアジア人の骨格は異なるため、2014年AWGS(ASIAN working Group FOR SARCOPENIA)によって日本人の体格でも対応できるアジア人特有の診断基準がつくられました。