睡眠時無呼吸症候群とは
日本の潜在患者数は300万人以上!?
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome)は、眠っている間に呼吸が止まる病気です。
Sleep Apnea Syndromeの頭文字をとって、「SAS(サス)」とも言われます。
医学的には、10秒以上の気流停止(気道の空気の流れが止まった状態)を無呼吸とし、無呼吸が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、若しくは1時間あたり5回以上あれば、睡眠時無呼吸です。
寝ている間の無呼吸に私たちはなかなか気付くことができないために、検査・治療を受けていない多くの潜在患者がいると推計されています。
この病気が深刻なのは、寝ている間に生じる無呼吸が、起きているときの私たちの活動に様々な影響を及ぼすこと。気付かないうちに日常生活に様々なリスクが生じる可能性があるのです。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状
時間帯別にチェック!こんな症状に要注意
睡眠中の酸素不足による脳や身体へのダメージ
本来、睡眠は日中活動した脳と身体を十分に休息させるためのもの。
その最中に呼吸停止が繰り返されることで、身体の中の酸素が減っていきます。すると、その酸素不足を補おうと、身体は心拍数を上げます。寝ている本人は気付いていなくても、寝ている間中脳や身体には大きな負担がかかっているわけです。脳も身体も断続的に覚醒した状態になるので、これでは休息どころではありません。
その結果、強い眠気や倦怠感、集中力低下などが引き起こされ、日中の様々な活動に影響が生じてきます。
いびきだけじゃない!こんな症状はありませんか?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の代表的な症状をご紹介します。
自覚症状の感じ方や程度には個人差がありますから、可能であれば寝ている間のことについてぜひご家族やパートナーにきいてみてください。
「ちょっと疲れているだけ」、「いつものこと」で終わらせず、日常生活を振り返ってみましょう。
さらに詳しくチェックするには、セルフチェックをご活用ください。
寝ている間
- いびきをかく
- いびきが止まり、大きな呼吸とともに再びいびきをかきはじめる
- 呼吸が止まる
- 呼吸が乱れる、息苦しさを感じる
- むせる
- 何度も目が覚める(お手洗いに起きる)
- 寝汗をかく
起きたとき
- 口が渇いている
- 頭が痛い、ズキズキする
- 熟睡感がない
- すっきり起きられない
- 身体が重いと感じる
起きているとき
- 強い眠気がある
- だるさ、倦怠感がある
- 集中力が続かない
- いつも疲労感がある
患者さんの傾向 こんな人があぶない!
生活習慣
夜だけじゃない!日中の生活にも要注意
- タバコがやめられない
- お酒が好きで、寝る前のお酒が習慣化
- 太り気味。暴飲暴食してしまうことがある
- 高血圧、糖尿病、高脂血症などの既往がある
見た目の特徴
痩せているからといって安心は禁物
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、太った男性がかかる病気というイメージがあるかも知れませんが、太っていなくても、痩せていても、女性でもかかる病気です。
それは、顔や首まわりの形体的特徴がその発症と強く関連するためです。
SASになりやすい形体的特徴をご紹介しましょう。
- 首が短い
- 首が太い、まわりに脂肪がついている
- 下あごが小さい、小顔
- 下あごが後方に引っ込んでいる
- 歯並びが悪い
- 舌や舌の付け根が大きい
性別
男性罹患率の高い病気です。
男性に多い理由の1つには、男性特有の脂肪のつき方・体型が関係していると考えられています。女性と比べて男性の肥満は上半身に脂肪がつきやすいのが特徴で、BMIをマッチさせた健康な男女の比較によると、男性では頸部への脂肪の分布割合がより高い傾向がみられます。このような男性特有の体型がSAS罹患率にも影響していると考えられます。ただし、女性も年代によっては罹患率が上昇するため注意が必要です。
年齢
30~60代のちょうど働き盛りにあたる年代は要注意。
生活習慣病を発症したり、体型が変化したりする年代でもあります。年齢と共に喉や首まわりの筋力が衰えることもリスクを高める一因。
20歳の頃のご自分を思い浮かべて下さい。その頃と比べて10kg以上太ったというような場合は、首・喉まわりの脂肪が増えて気道を狭くしやすくしている可能性があります。注意が必要でしょう。
閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)は男性に多いことが報告されていますが、更年期以降には女性の罹患率も高まります。また、OSAの特徴的な症状である「いびき」も、加齢と共にその頻度が高くなります。その理由の1つは女性ホルモンの働きにあると考えられています。女性ホルモンの1つであるプロゲステロンには、上気道開大筋の筋活動を高める作用があります。閉経によるホルモンバランスの変化がOSA発症に関与していると考えられています。 閉経後では閉経前と比べて発症率がおよそ3倍にもなるというデータも報告されています。
原因とメカニズム なぜ呼吸が止まるのか?
睡眠中に呼吸が止まる二大要因
睡眠中に呼吸が止まってしまう原因は大きく分けて2つあります。
1つ目は、空気の通り道である上気道が物理的に狭くなり、呼吸が止まってしまう閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)。
2つ目は、呼吸中枢の異常による中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)です。
閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)
喉や気道が塞がってしまうタイプ
上気道に空気が通る十分なスペースがなくなり呼吸が止まってしまうタイプです。
SAS患者さんのほとんど、9割程度がこの閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)に該当します。
上気道のスペースが狭くなる要因としては、首・喉まわりの脂肪沈着や扁桃肥大のほか、舌根(舌の付け根)、口蓋垂(のどちんこ)、軟口蓋(口腔上壁後方の軟らかい部分)などによる喉・上気道の狭窄が挙げられます。
これには、骨格とその中におさまる解剖学的な組織の量が関係します。
元々大きい骨格であれば多少太ったとしても、つまり組織の量が増えても、上気道を狭める可能性はそう高くはありません。しかし、例えば元々小さい骨格の場合はどうなるでしょう?
上気道のスペースが圧迫されて狭くなり、元から上気道のスペースが少ない場合にはさらに閉塞しやすい状況になるわけです。
横向きになるといびきが止まる!?
「仰向けに寝るといびきをかくのに、横向きになるといびきをかかない」のは、仰向けで寝た時に気道が狭くなっている証拠。特に仰向けの場合は舌の付け根(舌根)などが上気道に落ち込みやすくなります。睡眠中は筋肉が弛緩するので、ただでさえ無呼吸が起こりやすい状態になるのです。
上気道に十分なスペースがあるときには問題ないのですが、上気道が閉塞してくると狭い隙間を空気が通ろうとするので、音、つまり「いびき」が生じます。そして上気道が完全に塞がれてしまうと空気が通る隙間がなくなり、「無呼吸」になるわけです。
電車の中や会議中などで椅子に座った状態でもいびきをかいてしまうとしたら、要注意です。
中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)
脳から呼吸指令が出なくなるタイプ
脳から呼吸指令が出なくなる呼吸中枢の異常です。睡眠時無呼吸症候群の中でもこのタイプは数%程度です。
肺や胸郭、呼吸筋、末梢神経には異常がないのに、呼吸指令が出ないことにより無呼吸が生じます。OSAと違い、気道は開存したままです。OSAの場合は気道が狭くなって呼吸がしにくくなるため一生懸命呼吸しようと努力しますが、CSAの場合は呼吸しようという努力がみられません。
CSAに陥るメカニズムは様々ですが、心臓の機能が低下した方の場合には30-40%の割合で中枢型の無呼吸がみられるとされています。
予防法 今日からできる予防法
睡眠時無呼吸症候群(SAS)にならないために
適正体重の維持
どんな病気にも共通しますが、太りすぎないことが重要です。SASは喉や首まわりの脂肪沈着がその発症に大きく関与します。今SASでなくても、顎の大きさによっては少しの体重増加がSASにつながる可能性も。
もし今太っているとしたら、適正体重を目指すよう心掛けましょう。すでに治療中の方にとっては、やせることは治療の一環になります。
お酒に注意
いつもはいびきをかかないのに、お酒を飲んだ日にはいびきをかいてしまう–そんな経験はありませんか?
アルコールによって筋肉が弛緩するためです。首や喉まわり、上気道を支える筋肉も例外ではなく、上気道が狭くなる結果、いつもはないいびきが生じるのです。
ただでさえ寝るときは筋肉が緩んでいますので、アルコールが加わればさらに無呼吸に陥るリスクを高めることになります。
定常的な寝酒などは控えるのが賢明です。
鼻症状の改善、口呼吸から鼻呼吸へ
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻症状がある場合は、本来の鼻呼吸がしにくく口呼吸になるケースがあります。口呼吸の結果、鼻呼吸のときよりも咽頭が狭くなるため上気道が閉塞しやすい状態になります。口呼吸はSAS以外にも様々な病気との関連が示唆されているので、その意味でも鼻呼吸は重要です。
口呼吸をしている方には耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。
睡眠薬服用の注意
睡眠薬の多くは無呼吸症状を悪化あるいは助長させます。
自己判断での服用は避け、主治医とよく相談することが大切です。
寝姿勢の工夫
仰向けで寝るよりも、横向きで寝ると上気道の閉塞を軽減できる場合があります。
抱き枕などを使って横向きで寝られる工夫をしてみるのも良いでしょう。
21世紀の現代病 日本に300万人以上!?
身近に潜む現代病リスク、知らないうちに、あなたも予備軍に!?
日本国内の睡眠時無呼吸症候群(SAS)の潜在患者数についての報告は少なく、詳細は明らかになっていませんが、治療が必要な重症度の方に限定しても300万人以上と推計されています。
しかしながら、現在欧米や日本国内でもっとも普及している治療法であるCPAP療法でも治療者数は現在わずか40数万人程度。
21世紀の「国民病」、あるいは「現代病」とも言われるSASですが、多くの方に見過ごされているのが現状です。
現代の生活スタイルに潜む、知られざるリスク
現代病と言われる所以は、私たちの生活環境、中でも食生活の変化が関係しているため。
欧米的な高カロリー食により肥満が増えたことは周知の通りです。
加えて咀嚼回数の減少が顎の発達を妨げ、SASリスクを増大させていると考えられるのです。
はるか昔、縄文時代ではドングリや胡桃などの堅果類をはじめ、大麦や稗、あわなどの雑穀がよく食べられていました。堅い食べ物を食べるには相当の咀嚼が必要で、相応に顎も発達を遂げたと考えられます。
ところが、現代では堅い食べ物よりも軟らかい食べ物が好まれる傾向があります。ファストフードや食の欧米化などによる食の楽しみ・多様化が、一方では咀嚼回数の低下をもたらし、顎の未発達の一端を担っている可能性が考えられるのです。
睡眠時無呼吸症候群とは?[睡眠時無呼吸症候群が招く事件・事故]
居眠り運転が5倍に!?
居眠り運転の経験「あり」と答えた人は5倍以上!
睡眠時無呼吸症候群(SAS)によって生じる日中の眠気は、判断力・集中力や作業効率の低下を招きかねません。SASや睡眠障害によって生じる経済的損失が3.5兆円になるとの試算もあるように、交通事故をはじめ医療事故・産業事故などにもつながれば社会的リスクも重大です。
SASによる居眠りは、仕事中や運転中にも悪影響を与えかねません。
「運転中の眠気」の経験割合は、非SAS患者と比較してSAS患者で4倍(40.9%)、「居眠り運転」ではなんと5倍(28.2%)という調査結果も示されています。(※1)
※1 臨床精神医学1998;27:137-147 改変
睡眠時無呼吸症候群が事故にどう影響したかが裁判の争点に
睡眠時無呼吸症候群(SAS)のことが比較的知られるようになった現在でも、SASが関与したとされる交通事故は後を絶ちません。それは、自分の症状がSASであるということに気づかず、適切な検査や治療に至っていない人がまだ多いということでもあります。
「いつもの眠気」や「いつものイビキ」に、SASのリスク、ひいては交通事故をはじめとする社会的な事故のリスクまでもが潜んでいるということを改めて考えて頂きたいと思います。
2012年に群馬県藤岡市の関越自動車道で起きた高速ツアーバスの事故はまだ記憶に新しいでしょう。バスが高速道路脇の壁に衝突し、乗客7名が死亡、38名が重軽傷を負った大事故です。
事故後、運転手の日雇いなど複数の法令違反が明らかになり、バス会社の安全管理体制が問題視されました。この事故を受けて、国も再発防止策をまとめるなど対策に乗り出しましたが、一方で運転手にSASの症状が確認されたことでも注目が集まりました。
SASと交通事故をめぐっては、SAS症状が事故にどう影響したかが争点の1つになり、過去の裁判でも判断がわかれています。
この事故では、SASの影響で突然意識を失ったとする弁護側の主張が退けられました。自動車運転過失致死傷罪などに問われた運転手に、懲役9年6ヶ月・罰金200万円の実刑が確定しています。
睡眠時無呼吸症候群が関与した交通・運輸事故の事例(2013年6月現在)
2002年 和歌山
事故の状況:乗用車が対向車線にはみ出し、軽乗用車と正面衝突。3人が重軽傷。乗用車
の運転手は中等から重症のSASと診断。
判断・判決:SASのため、突発的に睡眠していた疑いが払拭できないとして、業務上過
失傷害罪の成立を認めず。無罪判決。(大阪地裁・2005年2月)
2003年 岡山
事故の状況:山陽新幹線で運転士が居眠りをしたまま運転。けが人なし。運転士はSAS
と診断。
判断・判決:本人にSASの自覚がなかったとして、起訴猶予。(岡山地裁・2004年3月)
2005年 滋賀
事故の状況:名神高速道路でトラック・バスなどを含む多重事故が発生。ブラジル人男性
7人死傷。トラック運転手は重度のSASと判明。
判断・判決:事故を起こした元トラック運転手に禁固3年の実刑判決。
(大津地裁・2007年1月)
2008年 山形
事故の状況:高速バスの運転士が眠気を催し走行が不安定に。乗客がバスを停車させて
事故を防いだ。
判断・判決:医療機関で検査を受け、軽度のSAS症状が判明。
2008年 愛知
事故の状況:大型トレーラーが赤信号の交差点に進入。横断歩道を横断中の男性を死亡
させた。運転手は起訴後に重度のSASであることが判明。
判断・判決:SASの影響で眠りにおちた可能性を否定できず犯罪とは証明できないとし
無罪判決。(名古屋地裁・2008年11月)後に最高裁まで争われ、懲役5年
の実刑が確定。
2009年 長崎
事故の状況:遊漁船が岩場に衝突し釣り客ら3人が死傷。船長がSASであり慢性的な
睡眠不足であったことが判明。
判断・判決:船長を業務上過失致死傷容疑で熊本地検に書類送検。
(熊本海上保安部・2010年12月)
2012年 群馬
事故の状況:関越自動車道で走行中のツアーバスが運転手の居眠りにより防音壁に衝突。
乗客45人が死傷。運転手にはSAS症状が確認された。
判断・判決:運転手に懲役9年6ヶ月・罰金200万円の実刑判決が確定。
(前橋地裁・2014年4月)
2012年 東京
事故の状況:渋滞中の首都高速湾岸線でトラックがワゴン車に衝突。ワゴン車に乗ってい
た東京税関職員6人が死傷。眠気を感じてから仮眠状態に陥るまで約1.5キ
ロ、さらに事故に至るまで約1.5キロを運転していたとされる。トラック運転
手にSAS症状が確認された。
判断・判決:元運転手に刑事責任を問えると判断し、自動車運転過失致死傷罪で在宅起訴。
係争中。(2013年6月現在)